網膜剥離

網膜剥離という病名はかなり耳にしておられると思います。下手をすると失明する恐い病気で、しかも両眼がかかりやすいので、注意が必要です。種々の原因がありますが、代表的なものを選んでみました。

(1)裂孔原性網膜剥離
 網膜は周辺部と視神経乳頭の部分だけでその外壁と癒着していますが、残る殆どの部分では外壁との癒着はなく接触している構造です。網膜に何らかの原因で穴が開きますと、この穴より眼内の水が網膜の裏側に入って、網膜が外壁から剥がれ浮き上がります。 網膜の視細胞は外壁から栄養が来ているため、剥がれた網膜の視細胞は機能を失い、その結果視力や視野が犯されます。網膜に穴ができる原因として、多いのが硝子体の牽引による網膜裂孔の発生です。

 上の写真は眼球を縦割りにして見た眼球内の構造です。中にある「みずあめ」状のものが硝子体で、生まれた時には眼球の中を完全に埋め尽くしていますが、年をとると次第に減少して、写真のように視神経と周辺でのみ付着した状態になります。 強い近視の人は、眼球の長さが長いので、年令の割に硝子体は早く減少します。硝子体が減少すると硝子体は動きやすくなり、視神経での付着ははずれてしまいます。そして硝子体はますます動くようになります。これが飛蚊症の原因です。

 この様に硝子体が減少してその可動性が増してくると、硝子体と網膜がまだ癒着している部分では、網膜が硝子体に引っ張られます。網膜が引っ張られると自覚的には光がみえます。 暗いところだと分かりやすいですが、眼を動かすと視界の隅のほうでピカッと光ります。これが光視症です。 そしてさらに強く網膜が引っ張られますと、この部の網膜は破れてしまいます(網膜裂孔の発生です)。網膜が破れた時に網膜の血管も同時に切れて、この部分から出血することがあります。 出血が多い場合は眼の中が血液でいっぱいになり光が通らなくなるため、自覚的には急激に何も見えなくなってしまうことになります。出血量が少ない場合は、視界に「スミが流れる」のが見える状況になります。 したがって「スミが流れる」状況になった時は、網膜が破れた時でもあります。 これを放置しておきますと裂孔の周りから網膜が剥がれてゆき、図のような裂孔原性網膜剥離の完成となります。

治療の要点は「スミが流れる」状況の時に早期に受診、網膜裂孔を検出して光凝固治療を行うことです。が、網膜剥離が発生してしまうと、光凝固は不可能になり手術が必要となります。 具体的には「スミが流れる」状況になったら、早急に眼科受診することですが、当日の受診が難しい場合は、血液を網膜の下方に沈めて裂孔の検出を容易とする為に水平方向を見た状況(座る)で安静・睡眠をとり、翌日に眼科受診してください。その日のうちに裂孔を検出し、光凝固を行います。

(2)アトピーによる網膜剥離
 アトピーとはアトピ-性皮膚炎のことで、近年増加している病気です。環境の悪化などが原因として指摘されており、治りにくい皮膚病ですが、このアトピーでよく眼に生じる三大合併症が、白内障、網膜剥離、円錐角膜です。 アトピーの人はかゆみのために眼をこすったり顔や首をたたいたりすることが多く、その衝撃で上と同じ網膜裂孔が形成され、網膜剥離に至ります。上の裂孔原性網膜剥離が、硝子体が減少する40歳代以降で起こることが多いのに対して、アトピーによる網膜剥離は10・20歳代など若い世代で起こりやすく、早いうちに視力を失ってしまうことで以降の社会生活が大きく変わってしまうこともあり得ます。
 対策としてはアトピー性皮膚炎の治療に本腰を入れて取り組むことと、痒いからといって眼や顔をたたかないこと、そして定期的な眼科受診が必要です。その上で網膜に裂孔ができれば光凝固治療を行うことが必要です。

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