Q. 白内障の手術後は、眼鏡なしで遠くも近くも見えますか?

 白内障手術は濁った水晶体を除去して人工水晶体に入れ替える手術ですが、人工水晶体は従来より単焦点レンズといって、決まった距離にのみピントが合うものが作られてきました。これを眼に移植するので、当然ピントが合わない距離ははっきり見えません。たとえば遠方に合わせた人工水晶体を移植した場合は、近方を見るときは眼鏡での補正が必要です(=老眼の状態です)。また乱視が強い方の場合は、通常の白内障手術では乱視は基本的に変わらないため、手術前と同様に遠方近方とも乱視補正のための眼鏡が必要になります。

人工水晶体の開発改良が進んで、現在では乱視矯正が可能なものや、遠近眼鏡のような、遠くにも近くにも焦点があう多焦点レンズも登場しています。多焦点レンズについては従来は健康保険の適応はなく、先進医療制度の適応になっていましたが、2020年4月から制度が変更され、選定療養という、手術費用の一部に健康保険が適応される状態になっています。

多焦点レンズは眼に入る光を「遠く用」・「近く用」に分けて網膜に届けるような構造になっており、原理的にはピントが合っている部分については、単焦点レンズと比べると光の情報量が減り、画質がやや落ちる理屈です。今のところ、遠近の眼鏡と同じようなことで、単焦点レンズに対してすべての点で上回っているものではなく、例えば仕事や趣味で写真や画像を扱うような方にはあまり向かず、見え方はそこそこでもよいがとにかく眼鏡はしたくない、という人に対しては非常に具合がよい、という性質のものと考えておくべきです。また白内障以外に眼の病気がある方には今のところ適用されません。

当院では多焦点レンズの取り扱いはしていませんが、多焦点レンズの適応になりそうな場合、しかるべき施設に紹介することは可能です。御希望の方は御相談ください。